弟のジョージ

一周村を探索たあとは、アルトゥールの実家へ行った。
僕は何も聞いていなかったので、また新しい友達でも紹介してくれるのだろうという感覚でしかいなかった。
玄関で迎えてくれた人がアルトゥールの母だと言われたときはびっくりした。
彼女は「オリャ」と呼ばれており、僕はオリャとハグで挨拶した。
ウクライナでの挨拶は握手、ハグが一般的である。
女の子同士や、親しい女の子からは、ほおにキスというのもアリらしい。

アルトゥールの弟のジョージも紹介してもらった。
ジョージは5歳で20歳のアルトゥールと比べてかなり年の差がある。
ジョージが今より小さいときは、アルトゥールがベビィシッターをしていたこともあるそうだ。
ジョージはアルトゥールを見かけると、彼のもとにかけより、彼の長い足に抱きつく。
アルトゥールはジョージをくすぐって、ジョージを喜ばせていた。
僕はジョージの写真を見たことがあったが、実際に会ってみると見た目以上に愛嬌があってとてもかわいかった。
ジョージの部屋の中は、大量のおもちゃが散らかっており、至る所にブロックで作り上げられたタワーが立っている。
もともとアルトゥールの部屋だったが、彼がルーダの家で下宿を始めるときに、部屋をジョージに譲ったのだった。
おもちゃの多くはアルトゥールのお下がりである。

ジョージはとにかく人懐っこい。
初対面の僕に対しても何のためらいも感じていない。
英語は学校で少し習っているが、ほとんど通じないので、おもちゃを使ってジョージの遊びに付き合う。
学校のテキストを見せてもらったが、日本の小1の段階ですでに日本の中1の始めに習うような短い会話文をやっていて、英語に関してはウクライナのほうが進んでいると感じた。
アルトゥールいわく、ウクライナの子どもはアルファベットに慣れていて、日本の子どもと違って1からアルファベットを覚える必要がないからだという。
それにもかかわらず、ウクライナで英語を話すことができない人が多いのは残念だと不満を言っていた。

ジョージは現在天体に興味を持っており、お気に入りの惑星の図鑑を見せてくれた。
くすぐりとても弱く、くすぐられるととても喜ぶ。
猫の真似が好きで「ミャー」と高い声で鳴く。

しばらくジョージと遊んでいたら、夕食の準備ができたとのことでキッチンに招かれた。
テーブルには黒パン、ソーセージ、焼いた豚肉が並んでいた。
席に座って準備が整うまで待っていると、アルトゥールの知り合いのダニエルと3,40歳くらいの女の人がやってきた。
おそらくオリャが招いたのだろう。

食事をしながら、僕は周囲の人たちの喋っている様子を観察していた。
まともに英語を話せるのはアルトゥールしかいないので、会話はウクライナ語で交わされていて、僕は何を話しているのかは分からない。
しかし確実に僕のことを話していることは分かった。
「日本」を意味するウクライナ語「ヤポーニヤ」が聞こえてきたり、女の人が物珍しそうに僕を見ていた。
女の人は自分の分かる限りの英語を絞り出して"How old are you?"と聞いてきた。
僕は21で実はアルトゥールよりも1つ年上なのだ。
東欧系の顔は大人びて見えるので、日本人の感覚で行くと、3,4歳は実年齢よりも年上に見える。
なので見た目からするとアルトゥールは25くらいにみえてもおかしくない。
そんな感じなので僕の年齢がいくつなのかはとても興味があったようだ。

僕はあまり喋らない代わりに、隣にいたジョージをくすぐったり、カメラで撮ったりして遊んでいた。
ジョージは僕が何か反応するたびにキャッキャと喜ぶので、とてもおもしろかった。
食後はあまーいトルコのお菓子と、にがーいターキッシュ・コーヒーをいただいた。
甘さを苦い飲み物で相殺するのがトルコのスタイルなのだそうだ。

家を出るときにジョージからお土産をもらった。

チェストナッツを削ってキノコの形にしたものである。このチェストナッツはキィーヴのシンボルでもあるのだそうだ。