農家の夫婦に誘われて

家に戻ると、アルトゥールの家族が来ていた。
そしてすぐに出かける準備をするように言われた。
もう夕方なので、後はゆっくり休んで明日の出国に備えるだけだと思っていたところなので、予想外だった。

いつもの日産車に乗ってキエフ郊外へ。
ジョージはもっと家で遊んでいたかったらしく、家を出たときは拗ねていたが、車内で日本から持ってきたプチを食べて機嫌が直っていた。
今日は酪農家へ新鮮な乳製品を買いに行くのだという。

道路の両側は収穫後の枯れ草色をした畑が延々と広がっていた。
車をしばらく走らすと、牛の行列が道路を横断していた。
牛が向かっている方向に沿って車も進んでいくと、酪農家の家があった。
牛は自分たちで牛舎の中に入っていく。
ヴィクトア、ジョージが牛舎の中に入っていたが、僕は臭いがひどすぎて入口にすら近づけなかった。

牛舎の向かいが酪農家の家で、右手には大量のカボチャの山と、餌に群がるアヒルたちがいた。
ここは老夫婦で営まれており、2人とも小太りで人の良さそうな顔をしていた。
老夫婦は食事の用意をしていた。
ウクライナの伝統的なおもてなしの方法だった。
家のそばにある木のしたにテーブルがあり、食べきれないほど多くの料理が並べられていった。
老夫婦が飼っている若い猫が1匹いて、ジョージがそれを見つけるたび追っかけ回していた。

猫に夢中のジョージを除き、全員席につく。
老婦人が自家製のヴォトカを僕とアルトゥールのために小さなグラスについでくれた。
乾杯をし、一気にグラスを飲み干す。
喉が焼けるような感覚がする。
アルコールは55%だという。
ヴォトカのあてにはチリソースの付いたサーロが出された。
アルトゥールを通じて、婦人とも会話した。
日本では朝何を食べているのか聞かれた。
僕は米も食べるが、パンも食べると答えた。
日本は食の幅が広いので、一般的に何を食べているのか聞かれると返事に困る。
グラスが空になると、ヴォトカを注いでくれる。
僕は2杯と軽く1杯、アルトゥールと夫人が3杯飲んでいた。
夫人の飲みっぷりが豪快だった。
アットホームな雰囲気で、とても居心地が良かった。

ジョージの襲撃を逃れるために、猫がテーブルの下に潜り込んできた。
ジョージに見つかるまで、そのままにしておいた。

出発するとき、辺りはすっかり暗くなっていた。
老夫婦の家の明かりと車のライト以外に光はない。
別れるとき夫人とハグをした。
「ド・ホバチンニャ」と彼らが言うのを僕はおうむ返しした。

明日がいよいよ最終日である。

0 件のコメント:

コメントを投稿